ぎっくり腰 診断法ぎっくり腰のお客様が来院された時、下記のように思うことはないでしょうか?

・「自信がないけど、大丈夫かな」
・「一番苦手な症状だ」

などと、開業後3年くらいまでの施術者は不安に思うことがあります。

臨床経験が浅い施術者は、重症のぎっくり腰を見ると自分の技術では治らないのではないかと不安になります。特に、一人院の場合は相談する人がいないので孤独です。

しかし、ぎっくり腰のお客様は、「仕事を休めない」「大切な行事がある」などの理由があり一刻も早く良くなりたいと思っています。

そのようなお客様のためにも、施術者は「ぎっくり腰の施術は得意です。安心してお越しください」と、1日も早く言えるようになりたいものです。

ぎっくり腰の初回問診では、他の症状と同様に、5W1Hの6つをしっかり聞くことが大切です。

①なぜ ぎっくり腰になったのか?(Why)
②誰が (Who)
③どこが辛いのか (Where)
④いつ辛いのか (When)
⑤何をしたら痛いのか (What)
⑥どのように (How)

施術においては、「検査 〜 仮説 〜 施術」の繰り返しで突き止めた、根本原因を改善することが大切です。原因がわかれば、再発予防に直結するからです。

ですから、いつも仮説を立てて施術することを意識しましょう。ぎっくり腰では、お客様の体の緊張が著しいため、見た目から読み取れる情報を上手に拾いたいものです。

そこで、初診時に視診と問診を活用して施術の仮説を組み立てましょう。

ぎっくり腰の原因

過去30年の臨床経験から、私は「ぎっくり腰は、仙腸関節が動けなくなった時の症状」だと確信しています。なぜなら、仙腸関節が緩むと、ぎっくり腰の様々な症状が確実に消えていくからです。(※仙腸関節:仙骨と腸骨をつなぐ関節)

ぎっくり腰を発症するタイプは大きく2種類あります。1つは、重いものを持ち上げ瞬間とかくしゃみをした瞬間に痛いと感じてから悪化して行くタイプ。もう1つは、気づかないうちにじわじわと悪くなりある日全く動けなくなるタイプです。どちらのタイプも症状は同じですので、ここでは分けずに説明していきます。

仙腸関節の重要性

仙腸関節の重要性

ぎっくり腰の施術で仙腸関節が大切な理由は2つあります。1つ目の理由は、仙腸関節は体重の分岐点だから。2つ目の理由は、仙骨(仙腸関節)は仰向けに寝た時の支持骨だからです。

❶ 仙腸関節は、体重の分岐点

仙骨と腸骨の間には「耳状面」という耳くらいの大きさの関節面があります。死体解剖すると、仙腸関節は固まっているので、動かない関節だと思っている方がおられます。しかし、生きている間は間違いなく動いています。

仙腸関節は線路の進路を変更するターンテーブルのような役割をしています。下半身と上半身の間で、力のベクトルを変えて体がスムーズに動けるように調整しています。

仙腸関節は、頭や背中からの1本の重力線を仙腸関節で左右2本に分岐させて足に伝えます。逆に、2本の足からの力を、仙腸関節から腰仙関節へ伝え、上体の動きをスムーズにします。

ぎっくり腰は、仙腸関節がターンテーブルの機能を失った状態です。ですから体重移動がうまくできず、ロボットのような動きになります。そして、歩行時には仙腸関節に体重がかからないように、膝や股関節を曲げてソロリソロリと移動します。

❷ 仙骨(仙腸関節)は、仰臥位の支持骨

仙骨(仙腸関節)は、仰臥位の支持骨

体重を支える骨を「支持骨」と言います。仰向けに寝た時、腰部では「仙骨」が支持骨です。仙腸関節で拘縮(硬くなる)がなければ、仙骨は前述の耳状面で緩やかに金魚運動の動きをしています。

※拘縮(こうしゅく、英: contracture)は、関節包外の軟部組織が原因でおこる関節可動域制限のことである。 生理学的には活動電位の発生の停止により筋が弛緩しなくなる現象。(Wikipedia より)

仙骨の前面(腹側)には副交感神経叢が蜘蛛の巣のように張り巡らされています。

仙骨が、ゆったり金魚運動していると、副交感神経は正常に働くことができ るので体がリラックスし、深い睡眠を得ることができます。

※金魚運動はイラストの通りです。
仙骨の金魚運動

しかし、仙腸関節が動かなくなると、腸骨の間に挟まれた仙骨が動けなくな ります。すると、体がリラックスできなくて寝ても疲れが取れません。このよう な状態が続いたある日、くしゃみなどが誘因となり突然ぎっくり腰を発症します。

もちろん、ぎっくり腰では仙腸関節、腰仙関節、股関節、さらにはそれらの関節周囲にある筋肉や筋膜・靭帯が複合的に絡みあい動きの制限が起こります。

これら動きの制限は、お客様の姿勢や動作、訴える言葉で推測できます。ですから、初回問診時は、お客様の体の傾きや手を当てる部位を観察し、訴える言葉をじっくり聞き施術の仮説を立てましょう。

【言葉の定義】
説明に際し、認識のズレが起こらないように、言葉の定義を記します。他の書籍と表現が違ってもご了承ください。

仙腸関節の重要性

後傾:骨盤が(両方の腸骨が)後ろに傾くこと
前傾:骨盤が(両方の腸骨が)前に傾くこと
後方回旋:片方の腸骨が後ろに傾くこと
前方回旋:片方の腸骨が前に傾くこと
仙骨底:仙骨の頭側の広い部分
金魚運動:(仙骨の重心軸に対する回旋運動+仙骨端の左右にスライドする動き)で金魚の尾のような動きのこと

 

望診(見た目の姿勢や動作)で判断できること

ぎっくり腰のお客様は、体を前後に曲げたり左右に傾けたりして、明らかに不自然な姿勢で来院されます。腰に手を当てたり、歩幅が狭くなったり、ゆっくり歩いたり見た目の変化が起きています。

なぜならぎっくり腰では、体重の分岐点である「仙腸関節」が拘縮(硬くなる)するため、ターンテーブルの役割が果たせなくなります。自分の体重を上半身と下半身の間で上手に移動できないのです。そこで、無意識に仙腸関節に手を当てたり、体を傾けたりして腰をサポートしているのです。

ですから、ぎっくり腰のお客様の姿勢を見れば、ある程度の診断ができます。以下4つのタイプを考察します。

A: 体が片側に傾いているタイプ

体が片側に傾いている時は、完治に時間がかかるタイプのぎっくり腰です。理由は仙腸関節が動かないだけでなく、仙骨まで傾いているからです。このタイプのぎっくり腰は、仙骨が体の傾きと同じ方向に傾いている可能性があるので、検査時に仙骨の傾きをチェックする必要があります。

ギックリ腰:体が片側に傾いているタイプ

❶ 体の傾きと「仙骨-尾骨」の傾きが同じ

イラストの右側は、背骨の傾きと同じ方向に仙骨が傾き、仙骨とつながっている尾骨も同様に傾く場合です。

※PSIS: 後上腸骨棘(posterior superior iliac spine の略)

❷ 体の傾きと仙骨の傾きが同じで、尾骨の傾きは逆

イラストの左側は背骨の傾きと仙骨の傾きは一緒なのに、仙尾関節(=仙骨と尾骨をつなぐ関節)で仙骨と尾骨の向きが逆になることがあります。(これは、尾骨が全身のバランスを取る骨であるために起こることだと思われます)

診断:体が傾いているときは、仙骨に問題があります。1つは、「仙骨-尾骨」が一連のものとなり左または右に傾くタイプです。もう一つは、仙骨のカーブを修正するかのように仙尾関節で尾骨が逆向きになっているタイプです。これは、お客様の既往症や生活習慣によ理、検査時に確認する必要があるのでメモしておきましょう。

※死体解剖すると仙骨は大きなひとかたまりの骨に見えます。仙骨が動くとは思えません。しかし、仙骨孔は背骨の椎間関節にあたる部分です。1つの仙骨として固まる以前は動いていた部分です。生きている人では、仙骨で上記イラストのようにカーブする人がいます。その多くのケースは、仙骨2番の少し下か仙骨2−3間で起こります。検査時に慎重にチェックする必要があります。

 

B: 体をまっすぐに伸ばせないタイプ

見るからに辛そうで、体を伸ばせないぎっくり腰の場合は、仙腸関節と腰仙関節に問題があります。上半身の体重分散機能がある仙腸関節が動かなくなると、左右の体重移動がスムーズにできないと前述しました。

すると、球関節である股関節が代償的に働きます。股関節を軽く曲げて右⇄ 左の体重移動するので、大股で歩くことができず「すり足」になります。動け ない「仙腸関節」がクルクル動く球関節である股関節の上に乗っているた め、上体を維持するのが不安定になり体を伸ばせないのです。

また、「腰仙関節」(仙骨と第5腰椎をつなぐ関節)は、骨盤と上半身の回旋 バランスを取る関節です。

「腰仙関節」の回旋の動きは左右それぞれ 20 度ですから、20 度を超えて 骨盤を捻ったまま生活すると「腰仙関節」に無理がかかります。その「腰仙 関節」を守るため周囲の筋肉や筋膜・靭帯が緊張したままになると、「腰仙 関節」がねじれた位置から正常な位置に戻すことができず体が伸びなくなり ます。

例えば以下のような具合です。

 
ギックリ腰:悪い体勢、悪い姿勢

このようなとき、多くは腰痛を発症して時間が経っています。そこで、「いつから悪いのですか」「体が傾き始めたのはいつ頃ですか」「ぎっくり腰は何度目ですか」と、時間が経過していることを認識してもらえるように質問しながら原因や誘因を探りましょう。


診断:体をまっすぐに伸ばせないときは、仙腸関節・股関節・腰仙関節の位置や動き(可動域)を確認する必要があるので検査時にチェックできるようメモしましょう。
※参考:骨盤のねじれがあるときは下記の筋肉も緊張していることが多いので、検査時に要チェックです。詳しくは各自解剖書で調べてください。外旋筋:大臀筋・深層外旋六筋 内旋筋:大腿筋膜張筋・小臀筋・薄筋 インナーマッスル:腸腰筋・腰方形筋 その他:外・内腹斜筋、腹横筋、腸腰靭帯

 

C: 腰を手でおさえて、そろりそろりと歩くタイプ

体は無意識に防衛反応が働き、痛みがあると手を当てて患部を守ります。ですから、お客様が手を当てているところは「痛み」があることを意味します。

診断で注意すべきは、「痛い部位 = 痛みをかばっている部位 = 悪い部位ではないかもしれない」ことです。
ギックリ腰発症
どういうことでしょうか?

例えば、あなたが左足首を捻挫したとします。その左足首をかばい体重を右足に乗せて歩いていると、悪くないはずの右足首が痛くなってきました。そこで、あなたが近くの整体院に行ったとしましょう。

この経緯を全部あなたが施術者に話せば、施術者は痛みの原因となる部位は左足首だとわかります。しかし、経緯を伝えず「右足首が痛いです」としか言わなかったら、左足が原因と気づいてもらえない可能性が高いです。

このように、お客様は今現在の痛みを訴えます。しかし、施術者はプロとして「痛い部位 = 痛みをかばっている部位 = 悪い部位ではないかもしれない」ことを念頭に置いて問診する必要があります。

診断:お客様が、「ここが痛いです」と第4−5腰椎椎間関節に手を当てたら、その関節の上下に動かない関節がある可能性を示唆しています。「そこはいつから痛いですか?初めての痛みですか?その近くで動きにくい部位はありますか?」と可能性を探りましょう。

また、前述の例のように足首など遠い関節のトラブルの影響がないかを知るために「今まで怪我や事故にあったことはありますか」「手術をしたことはありますか」「安産でしたか」など、お客様の状況に合わせて聞いてみましょう。

D: 楽な姿勢がないタイプ

お客様が「何をしても痛みがあり、楽な姿勢がないのです」というときは「重症」です。起きているのも寝ているのも辛ければ、疲労が取れにくいので回復まで時間が必要です。

疲労が蓄積された筋肉が硬く、浅い呼吸になり、痛みで「う〜〜ん」と唸ってうずくまります。このタイプのぎっくり腰は、慢性腰痛を抱え我慢しながら生活した結果、背中や腰、インナーマッスルが硬くなり、次第に仙腸関節の動きが制限された状態と考えて間違いありません。

仙腸関節・腰仙関節・股関節などの骨盤を構成する関節だけでなく全身の関節がカチカチになっています。ですから、簡単に治るとは思わないほうがいいです。

症状を追いかけて施術するのではなく、ぎっくり腰の原因である慢性腰痛を改善すると結果的にぎっくり腰がよくなります。

「腰痛が起きたのは何歳の時ですか」
「今まで腰痛はどのようにして解消してきたのですか」
「ぎっくり腰は何回目ですか」
「足や膝の痛みはないですか」
「股関節は大丈夫ですか」
「原因と思うことは何かありますか」

など、聞いて長期戦になることに気づいてもらい、頓服薬的な効果を期待しないようにお客様に理由を説明しましょう。

診断:このタイプのぎっくり腰は、多くの場合、古い事故や怪我の悪さが隠れています。問診時は、慢性腰痛について5W1Hの6つを詳しく聞き、ぎっくり腰とぎっくり腰との因果関係を探りましょう。

 

動作時痛のタイプ別診断

ぎっくり腰で「〜〜すると痛くて動けない」と訴える方は、どのような動作が痛みを引き起こすのか問診しましょう。すると、どこの関節に問題があるかわかります。

立位で動作時痛があるとき

「右(または左)に体をひねるとここが痛いです」「前屈するとここが痛いです」「体をそらすときにここがピリッと痛いです」など、動作時の痛みを訴える場合は、さらに詳しく聞きましょう。

明確に部位を特定できれば、施術ポイントがわかるからです。例えば、以下のようになります。

お客様:「右にひねったときに腰が痛いです。」
施術者:「右にどのくらいひねると痛みが出ますか?」
お客様:「このくらいです。」
施術者:「5度くらいひねると痛いのですね。その位置で、どこが痛いですか?」
お客様:「ここです」
施術者:「そこだけですか?他に痛みがありますか?」
お客様:「はい、右脚の裏が少し痛いです」
施術者:「わかりました。元の楽な位置に戻してください。右脚裏はどのように痛みますか?」
お客様:「はい、ズズーンとした痛みです」

このように聞いていきます。すると、痛いポイントがわかります。

痛いポイントを特定できれば、そこが悪いのか、もしくは前述のようにその近くに本当に悪い箇所があるのか、チェックできます。

また、放散痛(ある部位を刺激すると広がる痛み)があるなら、痛みがある部位を走る神経が特定できます。すると、その神経がどこから出ているかを解剖書で調べると施術ポイントがわかります。

このように、詳しく聞くことで得られる情報は施術に有効活用できます。

診断:動作時痛の痛むポイント、放散痛からどの神経の痛みかを特定しましょう。大まかですが、それぞれの動作時痛の施術ポイントを紹介します。
・ 体を前屈できないとき:股関節・仙腸関節・痛みを訴える関節付近
・ 体を後屈できないとき:仙腸関節・腰仙関節
・ 体を側屈できないとき:股関節・仙腸関節・小臀筋・大腿筋膜張筋
・ 立位で上体をねじれないとき:股関節・仙腸関節・腰仙関節
・ 立位では状態をねじれないが座位だとねじれるとき:仙腸関節・腰仙関節

 

運転後に車から降りられないとき

ぎっくり腰のお客様の中に、運転中は痛くないのに車から降りるとき腰が痛くて全く動けないという方がいます。

この場合は、仙腸関節の運動制限が限界に達したと判断してください。仙 腸関節が動かないときは、その場で足踏みすると脚(太もも)の上げ下げは きついはずです。腿の上げ下げだけできつい状況にもかかわらず、運転す るときは、右脚を軽く浮かしてアクセルとブレーキの間を左右に行き来しま す。

さらに運転中は、振動や揺れによる負荷が仙腸関節にかかります。こうして運転中に仙腸関節に負担がかかりすぎ、仙腸関節がミシミシ軋んでいる状態だと、太ももを持ち上げて車の外に出ようとした途端「アイタタタ・・・」と動けなくなるのです。

診断:運転後に車から降りられないときは、仙腸関節の運動制限が必ずあ ります。施術後も運転中の姿勢をアドバイスしないと、施術効果が半減しま す。正しい骨盤の位置の説明を以下を参考にしてわかりやすく説明しましょ う。

 
骨盤の正しい位置

骨盤の正しい位置は、尾骨先端と恥骨が一直線になる位置だと説明してください。おそらく施術者が説明してもお客様はよくわからないでしょう。そこで、実際に体験していただきましょう。

まず、お客様の左手で恥骨の前下縁、右手で尾骨先端を触ってもらいます。そのまま軽く座骨を少し移動して腰を動かし、尾骨先端と恥骨下端が座面から同じくらい浮いている位置を見つけてもらいます。そこが骨盤の正しい位置です。目安としては、おおよそ肛門の前2センチあたりの位置が真下にくる位置です。

骨盤の位置については面白いエピソードがあります。

ぎっくり腰のお客様に施術者が、「待合室で楽にしてお待ちください」と声がけします。すると、お客様は全員腰を立て背中をまっすぐに伸ばした姿勢のまま、ゆっくり膝を折って椅子に腰掛けます。畳の部屋だと、男女を問わず、ゆっくり腰を立てたまま正座します。本当に正座するのです。

施術者が「楽な姿勢でいいのですよ」と促しても、お客様は「これが一番楽な姿勢なのです」と、すっと腰を伸ばして座ります。この会話から、ぎっくり腰は、骨盤を正しい位置に置くことが腰全体の負担を軽減するとわかります。

また、「ぎっくり腰のとき、運転は軽トラックに限る」と複数の男性が証言しています。フカフカふわふわの高級車のシートに腰掛けるよりも、軽トラックの硬くてゴツゴツしたシートに深く腰掛ける方が下車するとき腰が痛くないそうです。これも、骨盤を正しい位置に置くことが、腰全体の負担を軽減することを意味しています。

トイレに行けない+トイレットペーパーに手が届かないとき

「朝、起きたら腰が痛くて1ミリも体を動かせないです」
「うめき声をあげながら、引きずるようにして時間をかけてトイレにようやくたどり着きました」
「どうしても、腰の痛みでトイレットペーパーに手が伸ばせないです」

深刻なギックリ腰

このような訴えは深刻です。ぎっくり腰が寝起きに発症するのは、支持骨のところで説明した仙腸関節が動けない状態です。とは言っても、仙腸関節の悪さだけなら、起きてしまえばなんとか動くことができます。動いて血流が良くなると痛みが軽減するからです。

しかし、うめき声をあげながら、引きずるようにして時間をかけてトイレに行ったということは、もはや骨盤に上半身の体重を乗せられない状態に陥っていると判断したほうがいいです。

その時に真っ先に考えるべきは腰仙関節です。腰仙関節は、第5腰椎と仙骨をつなぐ関節です。腰仙関節は骨盤の上で上半身とのバランスを取るために動くと前述しました。ですから、腰仙関節やそれに連なる上位の関節も動けなくなっている可能性があります。

さらに、トイレットペーパーに手が伸ばせないなら、その腰掛けた位置で気張れないはずです。このときは、腰周囲の筋肉を包む筋膜も緊張していて使えないと判断できます。

この訴えがあるぎっくり腰は、回復に時間がかかるタイプです。しっかりよい状態にまで回復させないと、再発を繰り返すでしょう。

今回が初めてではない可能性があるので、既往症を具体的に聞きましょう。このタイプは、長期治療の必要性を説明して治療するとともに、再発しないアドバイスをする必要があります。

診断:トイレに行けない、トイレットペーパーに手が届かないときは重症です。安請け合いは危険なタイプと心得ましょう。検査で確認すべきは以下です。

・仙腸関節、腰仙関節、第5腰椎から第9胸椎までの椎間関節
・腸骨に着く外腹斜筋、内腹斜筋、腹横筋、胸腰筋膜、腰方形筋、腸骨筋の筋膜(解剖書で要チェック)
・第4ー5腰椎についている腸腰靭帯(解剖書で要チェック)

 

静止時痛のタイプ別診断

動いているときは痛くないけれど、ジッとしていると痛いぎっくり腰は、静止時痛の部位に血行不良があることを意味しています。

例えば、同じ神経痛でも、夏の暑い時期は症状が軽いのに、冬の寒い時期にはジンジン痛むのと一緒です。動いていて血流が良くなっているときは痛みは弱く、静止時は血流が低下し痛みが強く感じるのです。

診断:静止時痛はその近辺に血行不良があるサインです。どこが痛むかを確認しましょう。

 

イスに座っていて痛いタイプ

椅子に座った時に痛みが増す場合は、仙腸関節の硬さが原因です。イスに座った時の支持骨は坐骨です。骨盤を構成するのは腸骨・恥骨・坐骨の3つの骨です。この坐骨が、イスに座ると本人の体重でロックされ動かなくなります。もし、坐骨の位置がずれていれば、そのずれを仙腸関節が吸収することでバランスを保ちます。

座って痛いギックリ腰の原因は、仙腸関節が硬い

経験的には、右腸骨が後方回旋する確率が8割くらいです。それは、体が左重心であることを意味しています。

左重心の人は、立位では支持骨の左足に体重をかけ右足をリラックスさせ ます。同様に座位では、左座骨に体重がかかっています。すると、その左座 骨を中心に左仙腸関節に主に体重がかかり、右腸骨は後方回旋してバラン スを取ります。それに伴い右坐骨が左座骨よりも座面の前方に移動し、右 の仙腸関節の動きが左側よりも大きくなります。そこに体重がかかるので少 しずつ負担が増え、血流が悪くなりジーンと痛みます。

診断:仮説が当たっていれば、座位で右坐骨が前方に行っていますので、検査でチェックする必要があります。

※検査の目安を簡単に紹介しますので、立位や座位で後ろから坐骨結節に手を当てて、坐骨の位置(上下の位置関係)を確認しておきましょう。

  • 立位では、腸骨が後方回旋しているとPSIS(後上腸骨棘)が下方に行きます。
  • 座位では、腸骨が後方回旋しているとPSIS(後上腸骨棘)が上方に行きます。

例えば、座位で右のPSISが上方(頭方向)にあれば「右の腸骨が後方回旋している=右側の坐骨が前(膝方向)にある」と判断します。ですから、施術者が 座位で治療するなら、右坐骨の位置を後ろに戻し PSIS が左右揃ったとこ ろから施術を開始するとスムーズです。

寝ていても痛いタイプ

寝ている時の支持骨は仙骨です。何かの理由で仙腸関節の動きが制限 されると、仰臥位に寝た時にお腹の重みが仙骨にズシンとかかります。する と、その付近の血流が悪くなり重苦しく痛みが出てきます。

仙腸関節が動かない時の特徴は、寝返りが打てないことです。本人は、 仙骨が苦しいので、就寝中に無意識に寝返りを打とうとします。しかし、仙腸 関節が硬いので寝返りを打てません。すると、ますます血流が悪くなる悪循 環にはまり、仙骨がズズーンと痛みます。これが、寝ていても痛いときに起 こっていること現象です。

また、反り腰の方は、仰臥位に寝た時に本人の手が腰の下にスルリと入り ます。腰椎の椎間関節が正常なら、仰臥位では腰の前弯が消えて、第1−5 腰椎はベッドにぺたりとつくのが正常です。

しかし、腰椎椎間関節が緊張すると仰臥位に寝ても腰椎が反ったままにな ります。すると、体重を腰椎で分散して受け止められないので、仙骨で体重 を受ける割合が増え「寝ていても痛い」状態になるのです。

診断:寝ていて痛いタイプは、仙腸関節の硬さがあります。反り腰だと、腰椎の前弯がきついので、その可能性もメモしておき検査時に確認しましょう。

 

内臓にも異常が現れているタイプ

①「下腹がいつも重苦しく痛みます」「泌尿器科や婦人科で検査して異常なしだけれど、左下腹が痛みます」と訴える場合

この訴えは腸骨の内側に着く筋膜の拘縮を意味しています。ほとんどの場合、お客様は泌尿器科や婦人科など医療機関で検査を受けています。受診の結果は異常がないのに痛いのでとても不安を抱えておられます。

もし、お客様が医療機関の検査を受けていないなら、安心のためになるべく早く医療機関の検診をお勧めしてください。

検査で異常がない場合を前提にして説明します。

腸骨陵の内側には浅い方から順に「外腹斜筋」「内腹斜筋」「腹横筋」「腸骨筋」がついています。この訴えがある場合は、これらの筋膜のどれか、もしく は複数、あるいは全部の筋膜の動きがスムーズではないことを意味しま す。

また、腸骨には「腰方形筋」がついていますし、仙腸関節の前面には「大腰筋」が走っていますので、筋肉の起始・停止、及び筋膜が骨に付着する部位の緊張がないことを確認しましょう。

筋肉の起始・停止、及び筋膜が骨に付着する部位の緊張がないことを確認

経験的には、お客様が便秘の場合は左下腹部痛を訴え、下痢気味の場合は右下腹部痛を訴えることが多いです。

さらに、骨盤底筋(骨盤の下についている筋肉群)が拘縮していても腹部内臓の臓器は窮屈になります。内臓は生命保持に重要な臓器なので何かしらのサインを発信します。それが下腹部の重苦しさということがあります。
骨盤底筋が拘縮すると腹部内臓の臓器は窮屈になる

診断:下腹部痛を訴えるときは、①腸骨につく腹筋の状態 ②インナーマッスル(腰方形筋・大腰筋・腸骨筋)③骨盤底筋群の緊張が考えられます。

※3つの筋肉群の緊張状態を確認し、その起始部や停止部に筋膜の拘縮がないか検査で調べるためメモしておきましょう。ちなみに、筋膜が正常ならしこりや痛みはないですが、筋膜の癒着があるとギョロギョロとしこりや痛みがあるのでわかります。

解剖書で正確に場所を特定して触診する準備をしましょう。

②「胃の膨満感があり、いつまでも食べたものが胃にある」場合

このような訴えでは、第12胸椎ー第1腰椎の椎間関節に動きの制限があります。
胃の膨満感がある場合
神経支配で見ると第12胸髄神経の内臓枝が胃の幽門(出口)を支配しています。この神経が十分働かないと、幽門部の動きが悪くなり胃の膨満感(いつまでも胃に食べ物が残る感じ)につながります。

診断:胃の膨満感があるときは、第12胸椎ー第1腰椎の椎間関節で可動域制限の有無を確認する必要があります。

 

その他の確認事項

よくある質問や訴えとして、聞かれることを3つリストアップしてみました。参考にしてください。

炎症の見分け方

ぎっくり腰の時多い質問は「温めればいいんですか?」「冷やせばいいんですか?」という質問です。医学的には急性期と安定期があり、急性期は冷やし、安定期は温めるのが対処法です。しかし、質問があった時点が急性期かどうか判断できなければ答えようがありません。

そこで、急性期の特徴の特徴を生かして判断します。

炎症があるときの特徴は患部がズキンズキンとうずくことです。ですから、急性期か慢性期かを自己判断する方法として入浴をお勧めします。炎症がある場合は、入浴中は快適ですが、入浴後体温が平熱に戻ると、入浴前以上にズキンズキンします。入浴後10分してもズキンズキンしなければ、内部に炎症がないと判断して大丈夫です。

炎症の見分け方
炎症があるときは、冷やしてください。アイシングは冷凍庫の氷をビニール 袋に入れ患部をさすり続けます。皮膚の感覚がなくなったらしばらく休み、感 覚が戻ってきたらまたアイシング。これを3回繰り返します。

炎症がないときは、血行不良を補うように軽く温めます。発熱するものを使う ときは低温やけどに気をつけてください。

また、サポーターやきついガードルは、動かない仙腸関節の補助として有効 ですが、血行障害を招く弊害があります。そこで、動くときはサポーターやガ ードルをつけ、腰掛けたり横になっているときはゆったりとした腹巻などで暖 をとるように工夫することを提案してください。血行が良くなるとぎっくり腰の 痛みが軽減し、施術後の改善が早くなります。

薬が効かない痛みについて

ぎっくり腰のお客様が「痛いので医療機関に行き、検査してもらったところ腰のどこも悪くないと診断されました。しかし、とても痛みます」という場合は、何が起きているのでしょうか?

薬が効かない痛み

私はこのタイプのぎっくり腰が一番重症で、施術者の負担が大きく、かつお客様も非常に苦しいと感じています。このとき一体何が起こっているのでしょうか?

あくまでも私の経験則ですが、このようなときは、骨盤から脊柱全般に関節が動かなくなっています。その証拠に、施術して関節の可動域制限を解除していくと別人のように楽になります。

なぜ、このようなことになるか不思議ですね。

私の考えでは、医療機関での検査は静止状態で行うからだと思っています。静止している状態では関節の位置も角度も正常に見える。しかし、動こうとすると関節が動かない。検査では異常なし。しかし、日常生活は大いに異常ありとなるのだと思います。

「医療機関で、患者さんの体を動かしながら検査できる方法があればいいのに」とつい思ってしまいます。

処方された薬を飲んだのに全く痛みが取れないときは、このような状態です。整体院や治療院は医療機関ではないので、検証できないのが残念です。しかし、薬が効かなくて辛いぎっくり腰の方が、可動域制限があった関節が動くようになると、すっかり痛みは消え回復して元気になります。

例えば、私はぎっくり腰を4度経験しています。1回目のぎっくり腰の時は、1回の施術と2−3日の安静で良くなりました。しかし、4度目のぎっくり腰は大変でした。職業柄、仙腸関節や腰椎の可動域制限が原因だと自分でも自覚できましたが、とにかく起きていることができません。治療を受けても深部の苦しさが残りました。

私のギックリ腰の経験

この時は、薬はほとんど効きませんでした。少し効いたかなと思っても体の深部の痛みが残り、薬の効果が切れるのもはっきり自覚できました。すっかり良くなるのに、1ヶ月以上かかり二度となりたくないと思ったものです。そのような時が一番辛くもありましたが、ぎっくり腰には程度の違いがあると経験できたので、今となってはいい体験でした。

診断:薬が効かない時は重症だと判断し、可動域制限がある関節を見つけることが重要になります。

 

医療機関へのお勧めが必要な時

既存のお客様がぎっくり腰になった時は、すぐに施術を引き受けることもあるでしょう。しかし、初めての方から電話で「ぎっくり腰です」と言われた場合は、できれば先に医療機関を勧めてください。

理由は3つあります。

1、骨折やヒビなどが原因でないことを確認するため
2、急性期は、施術してもお客様が施術効果を自覚しにくいため
3、医療機関の検査で原因がわかれば、施術ポイントが明確になるため

また、手術が必要なタイプのお客様なのに、手術が嫌で整体を選ぶことがあります。しかし、これも程度問題です。経験的には「痛くて、痛くて、ひと動作ごとに涙が出るほど辛い」時は、本人が手術を受けたくなくても医師の指示に従ったほうがいいことを伝えてください。

また、施術者ができると判断して引き受けても、通常なら3−5回で変化が出るが一向に変化しない時も、念のため医療機関をお勧めしてください。内臓の病気や癌のせいで腰痛になっていたということはよくある話です。肺癌でも腹膜を介して強い腰痛になりますので、油断しないでください。

まとめ

1、初めての方から「ぎっくり腰です」と電話があった場合は、先に医療機関 の受診を勧めましょう。理由は外科的トラブルに気づかないまま施術してし まうことを防止するためです。

2、既存客が「ぎっくり腰」になった場合は、施術者はそのお客様のぎっくり 腰になる前の状態を把握しているはずです。発症の経緯や具体的な症状を聞いて① 医療機関の受診を勧めるか ②来院を促すかを決めましょう。

多くの場合、「ぎっくり腰」発症直後の急性期は、患部に熱感があるので安 静にして休んでもらうようアドバイスします。その際、痛み止めを飲んだ方が 熟睡でき筋肉の緊張が取れますのでそのようにアドバイスしてください。

2ー3 日安静にして寝ると痛みは変化しなくても、炎症が治まり筋疲労が回 復します。その段階で施術すると回復が早いので理想的です。もし、お客様 がすぐに施術を希望される場合は、既存客なら施術者の判断で決めてくだ さい。

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